民主主義は、なぜ自らを内側から変えてしまうのか ――欧州の急進右翼政党と中国・ロシアとの「意外な関係」から考える

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比較政治学(急進右翼政党)

民主主義を脅かすものと聞くと、多くの人は軍事クーデターや独裁者による権力掌握を思い浮かべるかもしれません。しかし、現在のヨーロッパで起きている変化は、それほど分かりやすいものではありません。

選挙が行われ、有権者が投票し、その結果として政党が議席を獲得する。そして連立交渉を経て政権に入り、政策を決めていく。つまり、民主主義を揺るがす変化は、必ずしも民主主義の「外」からやって来るわけではなく、民主主義の正規の仕組みそのものを通じて生まれることがあります。

私は約10年間、ヨーロッパの急進右翼政党を研究してきました。急進右翼政党とは、移民への厳しい姿勢や自国民優先の考え方、強い国家や秩序を重視する姿勢、そして既成政治を「エリート対人民」という構図で批判するポピュリズムなどを特徴とする政党です。かつては政治の周辺にいる抗議勢力と見なされることが多かった彼らは、いまではイタリアやオーストリア、ハンガリー、ポーランドなどで政権に参加し、現実の政治を動かす存在になっています。

私の研究も、この変化を追いかけるように進んできました。当初は「なぜ急進右翼政党は支持を伸ばすのか」を研究していましたが、次第に「選挙で勝った後、彼らは何をするのか」という問いへと関心が移りました。そして現在、さらに新しい疑問に向き合っています。

民主主義国家の急進右翼政党は、なぜ中国やロシアのような権威主義国家と接近することがあるのでしょうか。

「正反対」のはずなのに、なぜ近づくのか

一見すると、この組み合わせは不思議です。

ヨーロッパの急進右翼政党はナショナリズムを掲げ、国家主権や伝統文化を重視します。一方、中国は中国共産党が統治する社会主義国家です。政治的な出自だけを見れば、両者はむしろ対極に位置するように思えます。

しかし現実の政治は、それほど単純ではありません。

この問題を考えるきっかけになったのは、急進右翼政党とロシアとの関係でした。2014年のウクライナ危機以降、とりわけ2022年のロシアによる全面侵攻を受けて、欧州の急進右翼政党とプーチン政権との関係が大きな注目を集めました。そこでは、国家主権の重視や文化的保守主義、リベラルな国際秩序への批判といった共通点が指摘されています。

では、これらの政党と、同じく権威主義的な政治体制をもち、社会政策や対外政策の一部でロシアと共通点もみられる中国との関係は、どのようになっているのでしょうか。

ロシアとの関係には多くの研究がありますが、中国との関係はまだ十分に明らかになっていません。私は、「ロシア型」の接近が中国との間にも見られるのか、それとも全く異なる論理で結びついているのかを確かめたいと考えています。

「親中」か「反中」かでは説明できない

この問いを調べるため、私は欧州議会で行われた中国関連の投票を分析しました。中国の人権問題、労働権、環境、台湾、経済協力など、中国に関わるさまざまな議案について、各政党が実際にどのような一票を投じたのかを調べたのです。

そこで見えてきたのは、政党が公に語ることと、議会で実際に取る行動は必ずしも一致しないという事実でした。

SNSでは中国を強く批判している政党が、議会では中国に有利となる立場を取ることがあります。逆に、中国に比較的友好的に見える政党でも、中国資本の流入や経済安全保障では強い警戒を示す場合があります。

つまり、一つの政党の中に「中国を批判する理由」と「中国に接近する理由」が同時に存在しているのです。

その背景には、人権だけでなく、経済的利益、安全保障、国家主権、EUへの態度、反グローバリズムなど、複数の価値や利害が複雑に絡み合っています。

だからこそ、政党を「親中」「反中」という一本の物差しだけで分類しても、その外交姿勢は理解できません。

私が現在もっとも興味を持っているのは、政党が「言っていること」と「実際にしていること」は、なぜずれるのかという問題です。

発言ではなく、行動を見る

この問いに答えるため、私は異なる種類の資料を組み合わせて分析しています。

SNSでは何を発信しているのか。選挙公約には何が書かれているのか。議会ではどのような投票をしているのか。そして政権に参加した後、その態度は変わるのか。

同じ政党でも、野党と与党では責任が異なります。また、人権問題と経済問題では優先順位が変わることもあります。こうした複数の場面を比較することで、「なぜこの争点では中国を批判し、別の争点では接近するのか」という政治的な論理を明らかにしたいと考えています。

私の目的は、「どの政党が親中なのか」という順位をつけることではありません。

どのような条件のもとで、中国やロシアへの接近や距離の取り方が生まれるのかを理解することです。

急進右翼政党は「民主主義の敵」なのか

急進右翼政党について語るとき、それを単純に「民主主義の敵」と呼んでしまえば話は分かりやすくなります。しかし、それでは重要な部分を説明できません。

彼らは民主主義の外部から現れた勢力ではなく、民主主義の競争そのものから生まれています。有権者から票を得て議席を獲得し、他の政党と競争し、ときには連立を組んで政権を担います。

だからこそ、「異物」として排除するだけでは、なぜ彼らが支持され、政治の主流へ入り、統治を担うようになったのかを理解できません。

もちろん、急進右翼政党が政権に参加した結果、司法の独立や報道の自由、少数派の権利といった自由民主主義を支える制度に負の影響を与える可能性は、多くの研究で指摘されています。私自身も、急進右翼政党の政権参加と政府の質との関係を研究してきました。

しかし同時に、彼らの支持者が皆、民主主義そのものを否定しているわけでもありません。既成政党への不満、移民や治安への不安、急速な社会変化への戸惑い、経済的な格差など、その背景は非常に多様です。

つまり、急進右翼政党は「社会の不満に応答する存在」であると同時に、「自由民主主義の制度を揺るがす可能性を持つ存在」でもあります。

この二つが同時に成り立つことこそ、問題を単純な善悪では語れない理由なのです。

国内政治と国際政治は、本当に別々なのか

急進右翼政党の研究では、これまで「なぜ支持されるのか」「政権に入ると何が起こるのか」といった国内政治の問題が中心でした。一方、中国やロシアの影響力は、外交や安全保障という国際政治の問題として論じられることが多くありました。

私は、この二つを切り離して考えるだけでは、現在の政治変化を十分に説明できないのではないかと考えています。

例えば、中国からの投資やロシアへのエネルギー依存は、各国政府や政党の外交姿勢だけでなく、国内政治にも影響を及ぼします。逆に、もともとEUや既存の国際秩序に批判的な政党だからこそ、中国やロシアとの関係を別の形で評価し、接近していく可能性もあります。

重要なのは、因果関係が一方向ではないということです。

国外からの影響だけでもなく、国内の不満だけでもない。その二つが結びつくところで、新しい政治が生まれている可能性があります。

今回の研究では、フランス、イタリア、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、オランダ、オーストリア、チェコなど、急進右翼政党が大きな政治的影響力を持った国々を比較しながら、この問題を考えていきます。

「遠いヨーロッパの話」で終わらせないために

私の研究対象はヨーロッパですが、問いそのものはヨーロッパだけのものではありません。

もちろん、欧州で起きていることをそのまま日本に当てはめることはできません。歴史も政党政治の仕組みも、移民や社会統合をめぐる状況も異なります。それでも、既成政治への不信や社会変化への不安が、新しい政治勢力への支持とどのように結びつくのかという問いは、日本にとっても無関係ではないはずです。

SNSを通じた政治的な情報発信、反グローバリズム、外国人をめぐる議論、既成政治への不信――こうした現象は、日本でも以前より身近なものになっています。

だから私は、「欧州の極右」という特殊な現象を研究したいのではなく、そこから民主主義そのものが抱える難しさを考えたいのです。

選挙によって多数の支持を得ることと、自由や少数者の権利を守ることは、必ずしも常に同じ方向を向くとは限りません。有権者が民主主義を支持しながら、同時により強い指導者や権威主義的な政治手法を求めることもあり得ます。

民主主義は、社会の不満に応答する制度です。しかし、その応答がいつ自由や法の支配との緊張を生み、民主主義のあり方そのものを変えていくのか。その境界線は、まだ十分に分かっていません。

中国やロシアと欧州の急進右翼政党との一見意外な関係を調べることは、その大きな問いへの一つの入口です。

民主主義を変える力は本当に民主主義の「外」からだけやって来るのでしょうか。

私はこの問いに、一つの大きな答えを先に与えたいわけではありません。政党が「何を語るのか」と「実際に何をするのか」を丁寧に追い、国や政党を比較しながら、その過程を一つずつ確かめていきたいと考えています。

民主主義は、外から攻撃されるときだけ危うくなるわけではありません。人々の不安や不満に応えようとする政治、選挙によって正当性を得た政治、国家の利益を守ろうとする政治――それらはすべて民主主義の中に存在するものです。

だからこそ、民主主義は、なぜ自らを内側から変えてしまうことがあるのか。

その答えを探ることが、いま私が社会と共有したい、まだ未完の問いです。

すべての問い

過去の歴史は未来に役に立つのか後悔をどう捉えるのか種の分類は科学のみで可能か神話は共同体に何をもたらすのか技術と政治の関係性とは人生に意味はあるのか道徳は必要なのか死をどう扱うか美しいとは何か恋は本当に盲目になるのか権威は誰が与えるのか古代も現代も悩みは同じではないか右翼政党がなぜ世界で広がっているのかAI時代の同意とはなにか